サンクトペテルブルグ2日目 前編~エルミタージュ美術館の内装とおじさんに興奮する
よく寝た。
前日の夜、スイッチを切ったように眠りに落ちた私は、スイッチを入れたように目を覚ましました。
サンクトペテルブルグ2日目の朝、窓の外はまだ暗いです。
時間は6時を回ったばかりで、まだ連れは静かに寝ているようでした。
しばらくツイッターを見た後、お手洗いへ行って戻ったら、連れは体を起こして携帯を見ています。
「おはよー」
「おはよう」
「私はもう起きるけど、寝ててもいいよ」
「んー、起きようかな」
「体調は?」
「ましになった。喉の薬がすごい効いたみたい」
「おー、そりゃよかった」
ドミトリーよりも落ち着いて寝られたのか、薬のおかげか、見た感じ辛そうではありません。
もそもそと朝ごはんを食べ、ひと休み。
ホテルのオーナーであるDmitryさんは常駐しておらず、他に宿泊客もいないようで、自分たちが立てる物音以外に人の気配はなく、ただ静かです。
ホテルはマンションのワンフロアを改装した造りで、私たちはロビーに近い部屋を使用しています。奥にもまだ部屋がありそうですが、泊まり客が少ない時は閉鎖しているみたい。
せっかくだから、やっぱりエルミタージュ美術館に行ってみたいそうで、体調に気を付けながら一緒に出かけることにしました。
歩いても行けますが、今日は疲れているから地下鉄を使いたいという訴えにより、なるべく省エネ移動です。
とはいえ昨日と同じ路線を使うのは面白くないから、違う路線で乗り換えを試してみようという提案をしてみたら、オッケーをもらえました。
モスクワ鉄道駅とは反対方向へリゴーフスキー通りを南下して、4号線の「Площадь Александра Невского(プローシャチ アレクサーンドラ ネフスカヴァ)」から乗り、「Сласская(スパースカヤ)」で5号線に乗り換え、「Адмиралтейская(アドミラルチェイスカヤ)」まで行きます。
どんよりした曇り空をバックに、看板の人のテンションは高い。こんなアッパーなロシア人は旅行中一回も会わなかったぞ。
時々ぽこっと取り壊し中のビルがあって街並みが凸凹してます。テトリス・・・
かとおもえば金ぴか&ピンクの建物がふいに現れます。
メリハリが効いてるというか、落差があるというか、この抜け具合が好きだわー。
それにしても、少々冷え込みます。路傍には雪の塊がちらほらと。川べりの道にはしっかりと雪が残っています。
この情景を思い起こさせる詩の一節が頭に浮かびました。
わたくしはでこぼこ凍ったみちをふみ
このでこぼこの雪をふみ
向ふの縮れた亜鉛の雲へ
陰気な郵便脚夫のやうに
(またアラッディン 洋燈とり)
急がなければならないのか
宮沢賢治の「屈折率」です。詩集「春と修羅」に収められています。
春と修羅 (愛蔵版詩集シリーズ) | 宮沢 賢治 |本 | 通販 | Amazon
この詩が描き出すような、鈍色の雲が垂れ込める、くすんだ風景に心惹かれます。色で言うとグレー。
華やかでも鮮やかでもない色彩の街路を、ピリリと頬をさす冷たい空気に包まれて、あてもなくさすらいたい。そこに私を知る人は誰もおらず、私は誰でもない。一種の逃避なのかな・・・
そんな願望を持つ私は、もちろん能町みね子さんの「逃北 つかれたときは北へ逃げます」を愛読しています。
国内および国外の「北」への逃避行をつづったエッセイで、読むとすぐさま北へ旅立ちたくなります。危険。
まだロシアに来て2日目だというのに、妙にしっくりきているのは、日照時間が少なく、彩度が低くなる季節のせいなのかもしれません。
右手のビルに地下鉄を示すマーク「M」が見えてきました。
しかしその手前に、もっと馴染みのある「M」マクドナルドの看板があるのがお分かりでしょうか?
ちょっと興味はあったけど、朝ごはんを食べたばっかりだし、ロシアまで来てマクド(連れは関西出身、私も大阪に住んでいたことがあるので我々は「マクド」と言う)に入るのもなーと通り過ぎました。
相変わらず、深く長く速いエスカレーター。
乗り換えもスムーズに行えました。ロシアでも地下鉄は路線ごとに案内板もホームも色分けされているため、とても分かりやすいです。
初日に乗った1号線は赤、今日最初に乗った4号線はオレンジ、乗り換えた5号線は紫です。
Адмиралтейскаяに到着して外へ出ると、めっちゃ雪降ってる!!!
横殴りに降る雪が顔面にバシバシ当たって痛い。傘?そんなもん役に立たん!
うっすら白く煙っているのは雪です。背中を丸めて歩く連れの後ろ姿がわびしい。
そんな悪天候の中でも、ものすごい話しかけてくる謎の勧誘おばさんとか、観光客向けの一緒に写真を撮って小金をせしめる貴族のコスプレした人たちは精力的に活動しています。
根性と基礎体力の違いを思い知らされるなあ・・・
美術館前の宮殿広場には、大きなクリスマスツリーが立っていました。
アレクサンドル円柱の上の天使も寒そう。
除雪車がグルグル回って活躍してました。
雪にも映えるエルミタージュ。
建物を入ると中庭があって、その奥が美術館の入り口です。
チケットは館内でも購入できますが、かなり並びます。実はこの中庭に入ってすぐ右手に自動販売機があり、そこでも購入が可能です。でも皆さんわりとスルーしてました、あることに気づいてなかったのかも。私たちが使っていると、後ろに人がポツポツ並び始めてました。
入館したら、まずクロークに上着と荷物を預け、貴重品とカメラ(フラッシュをたかなければ撮影可能なエリアが多いです)、チケットを持ってゲートをくぐります。
日本語の音声ガイドを有料で借りることができますので、しっかり解説を聞きたい方はご利用下さい。
ここからは長丁場です。駆け足で見ても2~3時間はかかると聞きますから、軽く腹ごしらえをしておこうとカフェに向かいました。
入口ゲートの正面にある、有名な「大使の階段」の手前で右折して、そのまま奥へ進んでいくと、右手にオシャレ感のあるカフェ、左手にはこじんまりとしたインターネットカフェがあります。
私たちが行った時間が早かったのか、まだオシャレカフェは営業していなかったため、インターネットカフェに入りました。
そこで頼んだベリータルトが超当たりだったのです!
簡素な紙皿でサーブされているのから察せられるように、お値段は安いです。横の紅茶とセットで300円くらい。
でもタルトには中までフレッシュで濃厚なベリーがぎっしり詰まっていて、タルト生地もサクサク軽い口当たり。果物そのものの風味を存分に活かした絶品でございました。
北欧もそうだけど、北の方の国はベリーが採れるから、概してベリー系スイーツが美味しいんですよね。
「うまっ、うまっ」とうわ言のようにつぶやく私を、連れが羨ましそうに見ています。
連れの頼んだチョコレートケーキは普通だったそうです・・・つくづく外す男。
まあ、こっちは素材の味をそのままぶっこみました!ていう感じだからね。
エルミタージュを訪れる機会があったら、ぜひお試し下さい。私もまた食べに行きたいです。
お腹を満たして腰を上げましたが、ここで連れが提案をしてきました。
それぞれ興味があるものは違うし、ペースも異なるだろうから、別々に周って後で集合しないかというのです。
それはいいアイディアだと同意して、集合時間と場所を決めて解散しました。
自分がゆっくり見てるのに相手が退屈してると気を使うから、1人の方が気楽なんですよね。
さて、素直に打ち明けますと、絵画の良しあしがよく分からないです。というより美術に関して知識が浅いため、背景まで理解した鑑賞ができないんですよ・・・勉強不足が悪いのですが、これまであまり関心を持ってこなかったもので。
じゃあなんでエルミタージュに来たんだよ!と責められてもいたしかたない。なんとなく記念だし、NHK「テレビでロシア語」でも2週にわたって紹介していたから、行ってみたかったんです。「大使の階段」の実物も見たくて。
しかしご安心ください。そんな芸術オンチの私にも、レンブラントの絵がすごいのは伝わりました。
ほへー、絵がいっぱいあるなーとアホっぽく見て回っていた時に、そうだと知らず1枚の絵の前で足が止まりました。
なんだか、この絵は他と違う引力がある気がする、としばし眺めてから作者名を確かめると、レンブラントでした。なにぶん知識がないので、見ただけで作者は分からなかったんですな。それでもすごさの一片は分かるんだから、とてつもない作品なんだなと思います。
ラファエロ作品もありましたが、それらもぱっと見ると「なんかすごいのがある」と感じましたし、歴史に残る名作ってそれだけの力があるんですね。
写真はあえて撮っていません。素晴らしさを写真に収められるとは思えなかったし、記憶の中だけにとどめておきたくもあったのです。
その代わりというか、実際絵画よりも印象に残ったのは内装の豪華さです。もともと王族の宮殿だったんだから当たり前なんですけど、贅の凝らし方とお金のかけ方が桁外れで、ぽかんとするしかなかったです。
率直な感想は「これ、なんぼかかっとんのや・・・」という下世話な驚きなんですけどねー。
そちらは写真を撮りまくったので、ご紹介します。
色のトーンが、全体的に淡くて優しい感じです。
特にここの天井がお気に入り。こういう柄のスカートが欲しい。
人が写っているとスケール感が伝わりますね。天井が嘘みたいに高い。掃除はどうしていたんでしょう・・・
有名な音楽時計「孔雀」がある間です。そっちは人だかりがすごくて写真は撮れず。
だんだん麻痺してきて、これくらいだと「地味だな」と思うようになってきます。
ここは「うわっ、可愛い!」と声が出ました。ペールブルーとホワイトの組み合わせがさわやか&スイート。
ここ「〇〇の間」とかではなく、廊下なんです。どこもかしこも豪華で笑えてきます。
ここも廊下。
天井装飾のタイル?が好き。一つくらいくれないかなー。
金ぴかすぎて爆笑する私を、係員の方がけげんそうに見ていました。
ここはガイドブックで紹介されることが多いですね。エカテリーナ2世のコレクションが元となった黄金の間です。
あまりの輝きっぷりに言葉を失った礼拝堂。厳か、とはまた違った極楽感があります。
ニコライ1世が壁を白い大理石貼りに造り替えたという玉座の間。人がいない状態で写真に収めるの大変でした・・・
順番待ちの人が山ほどいて、遠慮してたらいつまでもシャッターチャンスは訪れません。
ちょっと引くとこんな感じですもの。
見ていて一番面白かったのはここです。窓側の廊下なんですが、端から端までかけて、聖書の創世記から出エジプト記やキリストの誕生を順を追って描いてあり、少しずつ後ずさりしながら見ました。
ちょうど社会見学の子供たちが来ていて、説明を一緒に聞けたのがラッキーでした。
ここをじっくり見て廊下の突き当りまで来た時、いきなりそこにいたご婦人に話しかけられました。もちろんロシア語、こっちが理解してるかどうかに一切頓着しない勢いでした。
突き当りにあるドアをさして、なにかを訴えている・・・身振り手振り&わずかに聞き取れた単語から「この向こうには行けないのか?」的なことを聞いている、ような?
私はドアの取っ手を引いてガチャガチャさせてから「Закрыт(ザクルイート)」(閉まってるよ)と簡潔に答えました。ご婦人は、ふんふんとうなずいて納得してくれたみたい。やれやれ。
ていうか、そういうのは係の人に聞いてくれよ。通りすがりの東洋人に質問しても正確なところは分からないよー。
しかしこの「Закрыт」この後何回か使ったんですよね。地下鉄の出入り口が今日だけ閉鎖されてるとか、お店が潰れてて開いてないとか。覚えておくと便利な言葉かもしれません。
ちなみに反対の「開いている」は「Oткрыт(アトクルイート)」です。
そうそう忘れちゃならないのが大使の階段です。
わりといい感じに写っていると思うのですが、実物は思ったよりこじんまりしてました。もっとこうバーン!と、映画「市民ケーン」のザナドゥ宮殿みたいなのを想像してた・・・
そしてこのカップル。いなくなってから撮ろうと思っていたら、自撮りしててなかなかどかない。
「とっても素敵ね!」
「君の方が綺麗さ・・・」
みたいにペチャクチャイチャイチャしてる。
しまいにはチュッチュしだしたので、あきらめました。
ここからは、気になった展示物です。
これ何?同じく引っかかっていた連れから「悪魔か何からしい」という情報を得ました。でもまだ謎。
獅子婦人、口に出してみると真珠婦人に響きが似ている。声に出して読みたい日本語です。
この方、あの超有名な「サモトラケのニケ」のお顔だそうです。肩から下と頭部がない、羽根の生えた女性像ですね。どんなのだったっけ?という方は下記サイトをご参照下さい。
けっこう普通の人っぽい、と思ってしまった。
こんなでっかい器で運んでるのがパイナップル1個なの?
甲冑を装着した馬がかっこよすぎた。
単純にあまりの巨大さにテンションが上がったポセイドン。立ち上がったらエルミタージュの天井に頭がつっかえるんじゃないかしら。
厚切りジェイソンの「ホワーイジャパニーズピーポー」にしか見えない。
ロシアまで行ったのにショボイ感想だなーと我ながら思わなくはないですが、自分なりに楽しみました!
付け加えて、展示以外をいくつか。
2階にある空中庭園です。ここにもクリスマスツリーがありました。
エルミタージュで働くおじさんたち。真ん中の人、袖まくってますけど・・・零下で雪降ってるよ?
一服を終え、仕事に戻っていくらしいおじさんたち。愛らしい。
待ち合わせを16時半に設定したため、5時間ほど見学したはずですが、時間は足りなかったです。最後の方は駆け足になるわ、待ち合わせ場所にたどり着けずに迷うわで、汗だくになりました。
行き止まりとか、こっちの階段は2階にしか降りれないよとか、罠が多すぎ。もしかして防犯上、迷路チックにしているのかな・・・涙目で同じ場所をグルグル回る私を、監視員の方たちが静かに見守っていました。一声かけて助けてくれるのは、期待しちゃいけないよね、うん。
ようやく待ち合わせ場所に着いた時には連れはすでに来ていて、時間をつぶしていたそうです。少し休憩してから、ミュージアムショップでエジプト神話に登場する猫の女神様バステトの缶バッチを2つ購入(2個で100ルーブルでした。お値打ち!)、外へ出ました。
すっかり夜になっています。
歩き回ったことだし、お腹もすきました。
ふらっと入ったレストランで、私は運命の出会いをするのでした・・・詳しくは次回!とジャンプ的引きをしてみる。