サンクトペテルブルグ2日目 後編~人生ベストのポテフラと出会う

タイトルが前回の引きのネタバレですが、まずはその運命のレストランに行くまでの道のりから。

 

エルミタージュを出た時にはとっぷり日も暮れて、お腹もいい感じに空いていました。

当初の予定では、るるぶに載っていた「シュトーレ」というロシア風パイが食べられるレストランに行くつもりでした。

エルミタージュを背にしながら宮殿前広場を抜けて、モイカ運河を渡ります。

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 橋を渡ってすぐを左折し、川沿いを進んでいきます。

車がすれ違えなさそうな細い道で、あまり人通りもありません。さすがに観光客は見かけず、地元民しか歩いていませんでした。

道なりにしばらく行って、最初の角を右折するとすぐ見えてくるはずなのですが・・・なぜかそれらしい店がありません。地図にはしっかり書かれているのに、探しても見当たりませんでした。

日本に帰って来てからお店のサイトをチェックしてみたところ、まったく違うページが表示されました。たぶん、もう営業していないのでしょう。

困った我々は、その近くをウロウロしていた時に見つけた、ウィンドウに英語メニューが貼られている店に入ってみることにしました。

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入口は短い階段を下りる、ロシアによくあるスタイル。ドアを開けるとショートカットのきれいなお姉さんが迎えてくれました。

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まだほかのお客さんはいません。

お姉さんは「Engish or French?」と尋ねてきます。手にメニューを持っていたので、どっちの言語のメニューが欲しいか聞いてるんだなと思い「English please」と答えます。

やはり英語のメニューを置いて、お姉さんは「後で来るね」と去って行きました。

久しぶりに英語の通じる人に会って、ちょっとホッとしました。

私はコテコテのロシア料理、ボルシチとビーフストロガノフ、付け合わせが選べるそうなのでフレンチフライを頼みました。飲み物はベリージュース。連れはクリームコロッケっぽいもの?あまりよく覚えていないけど、そんな感じのものを頼んでいました。

で、これがすっっっっごく美味しかった!!!

残念ながら、これも空腹&興奮のあまり写真を撮り忘れました・・・さすがに連れが「写真はいいの?」とツッコミましたが、食べ始めてからでは遅いんだなー。「いいよいいよ、もう」とモリモリ食べる私。

野菜の甘みがほのかに感じられるボルシチと、たっぷりサワークリームのハーモニー。具はホクホクと口の中でほぐれ、味わいをまろやかにしてくれます。

ビーフストロガノフは、よく煮込まれた柔らかなビーフがとろけるよう。あっさりめの味付けでくどくなく、いくらでも食べられそう。ベリーソースがアクセントになっていて飽きさせません。

極めつけは付け合せのフレンチフライ!太さも長さもちょうどよく、表面はサクッと、中身はホロッとほどける食感が最高。また塩加減が絶妙で、自分史上ベストの味でした。近所にあったら週3で通います!

ベリージュースは普通に美味しかったです。

うまい!うまいぞー!!シェフを呼べ!!!

テンションガン上がりの私に対し、連れは落ち着いたようすで「けっこう美味しいね」と言っています。

注文したものが違うから?それとも私のハードルが低いだけ?

まあなんにしろ、ご飯が美味しいのは幸せです。

嬉しくなってしまったので、会計の時お姉さんに「Очень Вкусно(オーチン フクースナ)!」(とても美味しいです!)と伝えました。

お姉さんはニコッと微笑み「Спасибо(スパシーバ)」(ありがとう)と答えてくれました。ほんわかした空気が流れます。「До свидания(ダスビダーニャ)!」(さようなら!)と互いに手を振ってお別れです。

次にサンクトペテルブルグに来る機会があったら、絶対にまた来よう。固く心に誓い、いい気分で店を出ました。

よかったら、行ってみて下さい。ぱっと見た感じは少し入りにくい店構えですが、美味しくて、かつリーズナブルなレストランです。私の食べた分で千円ちょいくらい。しかも連れが「いろいろ助けてくれるお礼に」とおごってくれました!ありがたや。

お店の名前は「Bagatelle」、下の地図でペンの先っぽが示している辺りにあります。

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暗くて申し訳ないですが、入り口です。

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ただ、お店の入れ替わりが激しいみたいで、もしかして無くなってしまっていたら申し訳ありません。

でも後から地元のお客さんが入ってきたから、それなりに流行っていそう。次回行ける時まで営業していてほしいです。

夕ご飯を済ませても、まだ6時半くらいでした。

連れに体調を聞くと「大丈夫」と言ってくれたので、徒歩でネフスキー大通りへ戻り、220年の歴史を持つショッピングセンター「Гостиный Двор(ガスチーニィ・ドゥヴォール)」でお土産を買うことにしました。

会社付き合いのバラマキ土産には縁がない私ですが、姪っ子にお願いされたマトリョーシカを買わねばなりません。

Гостиный Дворの目の前には、同じ名前の地下鉄の駅がありますから、疲れてもそれに乗ってスッと帰れて安心です。

レストランの前の道を南下すると、ネフスキー大通りに突き当たります。左折してすぐ、通りの向かいにカザン大聖堂が見えてきました。

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道路のこちら側では、ブックフェア的な催しが行われていて、ブースが並んでいました。

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もっと言葉が分かったら、ブックフェアが楽しめるんだろうな。語学習得へのモチベーションが上がります!

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書店ドム・クニーギ。2階にあるカフェ・ジンジャーがガイドブックで紹介されていました。ここも次回は行きたい。

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Гостиный Дворの通りを挟んで向かいにある建物です。これぐらいのライトアップが好き。看板を見ると、どうも銀行みたい。

ショッピングセンターの中に入ると、すぐ左手にマトリョーシカのショップがありました。

民芸品という趣のある、細やかな彩色で手の込んだ品が陳列されています。

すごく可愛くて素敵なんだけど、もっと素朴な感じのが欲しいんだよね。と思いつつ眺めていたら、商魂たくましいお姉さんにガッチリつかまりました。

次から次へと品物を出してきて、来歴や作者について説明してくれます。見事に流暢な英語です。観光客がたくさん来るんだろうな・・・

グイグイ勧めてくるお姉さんと攻防を繰り返し、やっとのことで振り切りました。

「買う」って一言もいってないのに、袋を取り出してラッピングしようとする荒業には手こずりました。あれ、気弱な人なら押し切られるぞ。作戦なんだろうなー。

去り際に見せた、ガッカリ100%の表情が忘れられません。

 店の奥へ進んでいったら、だんだん庶民的なお土産屋さんが増えてきました。

棚いっぱいにマトリョーシカを並べた店に入ってみると、まさに求めていた素朴な可愛い子ちゃんたちが!

顔は一つひとつ手描きだと以前にテレビで見たことがあります。どうりでみんなそれぞれに個性のある顔立ちです。

吟味のすえ、目のクリクリした子に決めました。中を見たかったので店員さんを探しましたが、周りにいる人たちは関心なさそうにボーっと立っています。

とりあえずその辺にいた人に声をかけたら、お店の人を呼んできてくれました。

びっくりするくらい愛想のない、NOスマイルのご婦人が現れました。

「Can I open it?」(開けてみてもいい?)と聞いたら、無言で開けてくれます。親切な人、なのか?すべて取り出すと、人形は全部で6個。最後の一番小さい子は、作りが雑なとこが逆に可愛い。「Cute!」と言っても、ご婦人はNOリアクション。一本筋が通っているぜ。

気に入ったので「I'll take it」(これください)と伝えると、重々しくうなずき無言でレジに持って行ってくれました。ていうか、一度も声を聞いてないんだが。

一応包んでくれたけど、うっすい紙をくるっと巻いただけ。そしてうっすいビニール袋(100円ショップで1パック100枚入りで売ってそう)に入れて渡されました。

斬新!ラッピングの概念をくつがえす簡易包装!

やばい、面白くなってきた。

笑顔で受け取る私に、のっぺりした無表情だったレジの女性の頬が緩みました。

Love&Peaceだね!イエーイ!

横で見ていた連れは「本当に愛想がないよね・・・」と黄昏ていました。

目的のブツはゲットしたから、建物の中を探検してみることにしました。

さっきから、ライブみたいな音が聞こえていて気になっていたのです。

音源をたどっていくと、階段の上から聞こえてきます。何やら人も集まっていました。

のぞいたところ、ドレスアップした美女がステージで歌っているではないですか。

「ライブ?」

「かな?」

派手めのスーツを着用した司会者が、テンション高く彼女を褒めたたえ(推測)、拍手を求めます。この人が、私がロシアで会った最もハイテンションな人だったわ。

美女がステージから降り、今度はカウガール風のコスプレ?をしたキュートな女性が登場し、またも歌い始めました。

「ライブなのかな?」

「うーん」

疑問に思いつつ、飽きてきたので2階のフロアを一回りして戻ってくると、また人が変わって男性が歌っています。ここでピンときました。

おそらくこれはカラオケです。ロシアではカラオケが大人気だと、やはりテレビで見ました。その根拠は、あんまり男性の歌が上手くない(婉曲な表現)ことだ!

周囲はわりと微笑ましく見守っている雰囲気です。ロシア人優しい。

そしてまたも新しい人がステージに登ります。軍服っぽい服装の女性です。緊張しているのか、声がちょっと震えてました。

「カラオケ大会じゃないの?」

「あー、なるほど」

連れも納得しています。

知らない人のカラオケを眺めてもな、と意見が一致し、下へ降りて1階フロアも見て回りました。

とりたてて目新しいものはなく、各種土産物屋と、地元の人も利用するのか、やや高級そうな洋服屋があるくらいでした。

ガイドブックには、ショッピングセンターにはスーパーがあり、珍しいお菓子や雑貨が買えると書いてあったのに、それっぽい店が見当たりません。

また潰れてるパターン?と思いましたが、ちょうどフロアマップの冊子が置かれていたので手に取りました。

そこにはスーパーらしき場所が記載されています。どうやら一度外に出なければいけないらしい。マップを広げて相談する私たちを、屈強なガードマンが見つめています。不審そうというより、ようすをうかがっている感じ。

そう、ガードマンがやたらいるんです。そう広くはないワンフロアに5人はいました。みなさん恐ろしくガタイがいい。日本のスーパーにいるような、おじいちゃん警備員とは訳が違います。腰には、殴られたら頭蓋骨くらいたやすく粉砕されそうな、ぶっとい警棒を下げています。

顔は怖いけど、こいつら迷ってるのか?声をかけるべきか?しかし言葉は通じるのか?という葛藤が透けて見えるようで分かりやすい。

私たちがオッケー分かったぞ的に話をまとめ、マップをたたんで戻すのを見て、ホッとしていたみたいです。

いったん外に出てから、ぐるりと側面へ回り込むと、案の定入り口を見つけました。

スーパーよりも、むしろデパートに近かったかもしれません。おもちゃ屋あり、文房具屋あり、DVD屋あり。奥に進むと食料品売り場がありました。

うわー、見てるだけで楽しいねー、デザインが独特だねー、などと盛り上がっていた我々は、ある事に気づいてしまいました・・・

さっきのカラオケが館内放送で流れてる!

驚きに、顔を見合わせる私たち。

そんなことってあるの?

デパートの催事場でカラオケ大会は日本でもあるかもしれないけど、それをわざわざ放送で流すかね?

プロ並みに上手な人もいれば、ハラハラするほど音程が不安定な人もいて、元気があればなんでもできる!な人もいる。買い物のBGMにしてはクセが強すぎるよー。

周囲の人々は慣れたようすで、特に気にもしていません。

あるんだ・・・珍しくないんだ・・・

ロシア、面白すぎ。

時に笑いの発作に襲われつつ、これを受け入れるしかないんだと悟った我々は、とにかく買い物を続けます。

 いろんなお菓子がいっぱいある!ワゴンにどさーっとチョコレートが積まれてる!カカオのパラダイスやー!

次々手に取って、ひとしきり興奮した後、ふと冷静になりました。

ホテルの近くにあるスーパーにも同じのあったぞ。あっちの方はバラ売りしてたから、たくさん違う種類が買えていいんじゃない?

天啓のごときひらめきが下りたきたので、両手の品物をそっと棚に戻し、スーパーでは買えなさそうな、ちょっといいチョコレートを探す方向に切替えました。

一つひとつに猫の写真がプリントされた、薄型チョコレートの詰め合わせを発見。チョコレートで間違いないとは思うけど、実はキャンディーでした!というフェイクもありうるため油断できません。念のため、その辺でくっちゃべってた店員さんに聞いてみます。

「Извинйте, Скажите, пожалуйста(イズビニーチェ スカジーチェ パージャールスタ)」(すみません、おうかがいしたいのですが)

おお、なんだなんだ?と3人のご婦人がわらわら寄ってきました。くわっと目を見開いていて、ちょっと怖い。

「Это шоколад(エータ ショコラート)?」(これはチョコレートですか?)

「До, До, шоколад」(そうよ、チョコレートよ)

Понятно, Спасибо(パニャートナ、スパシーバ)!」(わかりました、ありがとう!)

よしよし、確認できたぞーと浮かれていたのでしょう。

一つのフロアにさまざまなお店が集まっているため、お店ごとにレジを済ませなければいけないルールがあるのを知らず、外に出てしまったのです。

背後から低い声で「Девушка(ジェーブシュカ)」(お嬢さん)と呼びとめられました。

これ、私だな。声だけでも伝わるロックオン感がハンパない。

すばやく振り返ると、身の丈190センチ以上あるムキムキマッチョガイ(プーチン似)の警備員が腕組みして立っていました。

でっか!体厚い!うっすら笑ってる!

エクスペンダブルズのメンバーに混じってても違和感がないよ!

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少しでもおかしな振る舞いをしたら瞬殺される・・・そうでなくても映画でよく見る逃亡犯みたいに、床になぎ倒されて後ろ手で拘束される。あれは痛いぞー。笑顔が倍増させる威圧感に、産まれたての仔馬のように震え上がりました。

怯える東洋人女性を安心させようとしたのでしょう、あくまで優しくレジへと導いてくれました。粛々とレジを済ませる私を、静かに見守っています。よけい怖いんですけど。

別の店をぶらついていた連れをつかまえて報告したら、めっちゃウケてた。あんただったら呼び止められたのも気づかずに射殺されてた可能性もあるからな!と、同じ目に連れがあった場合に起きる、最悪の状況をシュミレーションして溜飲を下げました。

それぞれの戦利品を手に、地下鉄に向かうとまたもアクシデントが。

地下鉄入り口の前に人だかりができていて、ざわついています。

なんだろねーと思いつつ、ずんずん進んでドアを開けようとしましたが、ロックされていました。

疑問に答えるように、近くにいたご婦人がものすごい勢いで話しかけてきました。

話すスピードが速すぎるのと、知らない単語だらけで何を言ってるのか分からない。とはいえ状況から地下鉄を使えないことの説明をしてくれてるんだろうなと推測できます。

Закрыт(ザクルイート)?」(閉まってるの?)と聞くと、ご婦人は我が意を得たりとばかりの表情で「До, закрыт!」と答えてくれました。

Понятно, Спасибо」とお礼を言ったら、ご婦人も満足そうにうなずいています。

理由は分からないが、この入り口は使えないらしいよと連れに伝え、別の入り口を探して無事に地下鉄で帰りました。ホテルの最寄駅まで一駅の距離でしたが、連れはもう歩いて帰る元気はなさそう。これも、31ルーブル(約45円)という低価格だからこそ気兼ねなくできる贅沢です。

いつも通り近所のスーパーで朝食を買い、ホテルに戻りました。

一日歩き回って疲れたのか、連れの体調がまた思わしくありません。

明日はロシアを観光できる最後の日だから頑張りたいと言って、薬を飲んで早めに休んでいます。

寝転んだまま、それぞれの行きたい場所を提案しあい、私の希望でクンストカメラ(ドイツ語が語源の珍品コレクション・珍品好きの変人という意味)ことピョートル大帝記念人類学・民族博物館、連れの希望でサンクトペテルブルグ総合大学の学食にもぐり込んでご飯を食べる、が確定。

その道中で、イサーク大聖堂とスパース・ナ・クラヴィ大聖堂にも行けたら行こうねという流れになりました。

話しかけても、連れからは蚊の鳴くような声で答えが返ってる始末。大丈夫なのかな・・・体調に不安は残るものの、祈るしかできない。

大学への潜入方法をどうにか考えるから、連れの免疫系よ力を発揮してくれ!

2日目も私だけは元気なまま、サンクトペテルブルグの夜は更けるのでした。

 

次回は、結果的にすごく内容が濃くなった街歩きです。